デイヴィッド・ブーレイ　　David Bouley

1985年から30年間、一貫してニューヨークのレストランシーンを牽引しているスターシェフ。その旗艦店「Bouley」は、トップ・レストランといえど味が濃くて塩辛いニューヨークの料理界で唯一、和食にも通じる塩梅の穏やかさと食材の鮮やかさを感じ取れる料理として日本人コミュニティが絶賛する。現在ニューヨークで注目される若手シェフの多くがこの「Bouley」の出身者でもある。

デイヴィッド・ブーレイ自身は70年代後半からロジェ・ヴェルデやポール・ボキューズ、ジョエル・ロビュション、フレディ・ジラルデといった錚々たるレストランで働いて、83年に帰米するやそれまで古典的な料理が席巻していたアメリカのフランス料理界にトマト・ウォーターや各種のハーブやスパイスのオイル、フルーツや野菜を多用するソースを持ち込み、味の軽やかさと華やかさで並み居る食通たちを瞠目させた。88年に独立して現在の旗艦店の原型となる「Bouley」をトライベッカに開店。扉を開けると箱積みの大量のリンゴの芳香が異世界に誘う同店はたちまち人気ナンバー1のレストランとなり、ニューヨーク・タイムズで最高の四つ星、ニューヨークが発祥のザガットでも前人未到の30点満点中29点を連続獲得。当時ニューヨークでも初めての試みだったシェフズ・テイスティング・メニュー(お任せコース)は毎日即興でメニューが変わる離れ業で、供されるもの全てが魔法のような美味という「ブーレイ・マジック」なる言葉を生み出した。当時ザガット読者7000人を対象にした「人生で最後に食べたい料理は？」というアンケートでは、ニューヨーカーの圧倒的多数が「Bouleyの料理」と答えた。

第一次Bouleyは96年に店舗リースが終わって一時閉店し、97年に場所を変えて「Bouley Bakery」とオーストリア料理店「Danube」が開店。2001年の9.11同時テロでは崩壊した世界貿易センターがわずか7ブロック南というロケーションのために3カ月も閉店を余儀なくされたが、その間もデイヴィッド・ブーレイはグラウンド・ゼロで救助隊や消防士たちに連日炊き出しを行った。

その後2008年に現在の旗艦店「Bouley」と正式オープン。往年のブーレイ・マジックも復活し、2014年版ザガットでは再び料理でニューヨーク・レストラン中トップ29点を獲得している。世界中から新しい食材を紹介するのもトップ・シェフの責務の1つで日本の食材も大胆に取り入れるが「フュージョン料理はしばしばコンフュージョン(混乱)料理になるので私はやらない」が口癖。ブーレイ料理の特徴はあたかもどこかに初めから存在していたかのような自然さがあるが、実際には十数過程もの手が入っているオリジナル。そのソースはプロでも解析不能と言われる。

日本文化に関する造詣も深く、2011年には辻調理師専門学校の辻芳樹氏とともに和食店「Brushstroke(ブラッシュストローク)」を開店。その年の東日本大震災では、7月にニューヨークのシェフ9人を率いて岩手県塩釜市まで慈善炊き出しに出かけ、被災者3000人にブーレイ・マジックの一端を振る舞った。今回の日本行きは以来3年8カ月ぶりとなる。

明石　尚宏　　Takahiro　Akashi

下鴨茶寮で京料理・茶懐石の基礎を学び、東京・大阪の名店で研鑽を積む。東京紀尾井町・なだ万では全てのセクションを任され、国内外のVIP、国賓へ繊細で季節感のある日本料理を提供し好評を得る。２０１２年下鴨茶寮料理長として就任後、現在に至る。

小山　薫堂　　Kundo　Koyama

下鴨茶寮主人。放送作家として「料理の鉄人」など数多くのテレビ番組を手がける。初脚本となった映画「おくりびと」では、第８１回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。２０１４年４月、京都おもてなし大使に就任した。